NHK BS「”苦い”紅茶」 のフェアトレード批判について

松木 傑

一昨日の深夜のNHK BS「世界のドキュメンタリー」で「”苦い”紅茶」という番組が放映されました。これはフェアトレードに批判的なドキュメンタリーとして、すでにデンマークほか数カ国で放映されていています。http://www.nhk.or.jp/wdoc/backnumber/detail/090901.html

  フェアトレードの認証は1993年にコーヒーから始まりました。紅茶について認証するとき反対意見がでました。それは紅茶が作られている状況が、封建領主とその下で働く労働者に似た関係にあるためです。紅茶畑を所有する小規模生産者も存在しますが、世界の紅茶市場ではとるに足らないのです。
  そこで世界の紅茶生産の現実を認め、そこからはじめて、よりよい状況に改善するという立場でフェアトレード紅茶が始まりました。

  「”苦い”紅茶」を見た私の感想は以下の通りです。
★放送されていることは事実であろう。紅茶園の労働者が置かれている厳しい事実を知らせているように思う。
★フェアトレードが急速に広がっているデンマークで、「本当にフェアトレードは、うたわれているように実行されているの」という疑問と批判から放送されている。
★フェアトレードに関しては、奨励金がどう使われているか。労働者と経営者で運営されているJoint Body(共同組織)が民主的に運営され、労働者の意見が反映されているか、という視点で取り上げられていますが、ほとんどすべて、実行されていないケースだけ紹介されています。民主的に運営され、成果をあげている、私たちが販売していますイダルガセナ茶園など取り上げられていません。


★さっそくスリランカの別のお茶園の責任者にメールを送って、彼らのお茶園について確認しました。イダルガセナ茶園と違ってフェアトレード条件の売上げが少なく、労働者の子供に教科書を配ったりしている程度のようです。
  「フェアトレードで恩恵を受けていない」と労働者が言っています。これも事実だと思いますが、なぜか? もう少し掘り下げて報道すべきだと思います。おそらく多くの場合は、フェアトレードが悪くて、偽りがあるためではなくて、フェアトレード条件の売上げが少なくて、恩恵が及ぶまでに至っていないというのが、主たる原因だと思います。
  例えば年間10万円(ティーバックにすれば2トン)の奨励金しか受け取っていない紅茶園のJoint Bodyがあるとして、労働者の代表が民主的に選ばれて、すべての労働者に恩恵を実感できるまでに至らないのは当然です。
★長年の植民地支配下で労働者を管理してきたお茶園の管理者が、労働者を民主的に扱うのは簡単なことではなく、奨励金の管理は難しい課題だと思います。しかし、FLO「国際フェアトレードラベル機構」の監査官は、基準に従って監査、報告し、違反や改善すべき点を指摘します。猶予期間のうちに改善されなければ、警告し、それができなければフェアトレード認証を取り消します。フィルムに登場したケリーワッテ茶園は、認証リストにありませんから、取り消されたか、自主的にフェアトレードへの参加を辞めたのだと考えられます。最近、フェアトレードが広く普及する(日本ではなく、ヨーロッパ)に従い、批判を受けることが多くなり、基準が厳しくなり、警告を受ける生産者団体が増えています。乗り越えなくてはならない過程です。
★批判されている大手の紅茶園もフェアトレード団体も、このフィルムにより、一層、現実の問題点と労働者の厳しい状況を理解して、改善に努めると思います。
★たとえ矛盾や欠点はあっても、いま私たちにできることはフェアトレードを普及させることによって、労働者の生活を少しでも改善できるように支えて行くことだと思います。ほかに方法はありません。
★ 奨励金の例:①イダルガセナ紅茶園レポート(2006/8)へ