kayahmap*2015年度より、コーヒー生産で農民の経済的自立を目指す自立支援プロジェクトを、ミャンマー国カヤ州の2村14名を対象に開始しました。(独) 環境再生保全機構の「地球環境基金」により森林農法や有機農法の技術支援を、(公財)生協総合研究所の「アジア生協協力基金」により生産者組合の設立支援を行ってまいります。コーヒーの栽培指導のみならず、収穫したコーヒー豆を加工・商品化し、販売ルートを確立するまでの、包括的で長期的な支援です。*

2015年6月19日〜29日、ミャンマーにて、わかちあいプロジェクトのコーヒープロジェクトの活動を行いましたので、ご報告します。

 

プロジェクト報告:苗場と発芽ベッドの建設

山本博文 専門家・コーヒープロジェクト指導者

1.現状

 ミャンマーカヤ州は、タイ国境との境に位置する州であり、多民族の地域です。主に、カヤ族、ヤヨ族がその大多数を占め、首都はロイコー。標高は800−900mですが、地域によって1200mを超える山岳地帯もあります。今回のプロジェクト地域は、デモソタウンシップ・ドウビャクドーサ村並びにプソタウンシップ・ヤイブラ村です。6月20日にカヤ州到着し、8日間滞在しました。

 ドウビャクドーサは、標高900−1000m程度で、アラビカ種が育つ気候です。この村の主な収入源はなく、日常的に食するための食料を農耕する自給自足の生活を送っています。コーヒーの木は数百本程度生えていますが、それぞれ家のバックヤードに植えられており、品種はハイブリッドのS795とカチモール(両者ともに病気に対する耐性は強いが、品質が在来種のものと比べると劣る)。雨期にもかかわらず、全く雨が降っておらず、かなり土壌が乾燥していました。主に育てられている作物は、メイズ(トウモロコシの一種)ですが、干ばつのため、枯れてしまっているものもありました。竹林を所有している村人が多く、それぞれが独自に管理しています。水源は、近くの山から流れてくる水を利用していて、貯水ダムを有する村です。土壌は、褐色の土壌で、クレイを多く含む土壌で、水を含むと粘性を帯びています。酸度は、予想pH5前半といったところ。肥沃とは言えない土地です。

 ヤイブラは、標高が比較的高く1200−1400m程度。品質の良いアラビカ種が育つと思われます。こちらも同じく、主な収入源はなく、焼畑による、移動耕作をおこなっています。山岳地帯であり、焼畑の後斜面に直接、作物を植え、日常消費のために農耕しています。ドウビャクドーサと比べると、一人一人が所有している土地が広く、10エーカーを超えています。一箇所とは限らず、パッチ状に点々と所有しているのがほとんどです。自然林が多くあるため、土壌は腐葉土が多く、肥沃です。コーヒーは植えられているところはほぼありません。牛を放し飼いにしている農家が多いです。酸度は6前後と思われます。

 わかちあいプロジェクトが管理する農園、通称「わかちあい農園」はシャン州のペコンに位置します。ロイコーから車で1時間程度。湖が近くにあり、観光名所になりつつある場所です。標高は800−900m程度。主な作物は、メイズ、米、マンゴーです。同農園は24エーカーの広さがあり、現在ではその半分ほどを他の農家に貸し出しています。もう半分をわかちあいプロジェクトの管理人達が維持していますが、植えられているほとんどが干ばつにより、枯れてしまっていました。バナナ農園、コーヒー、アンソリウム、沈香を育てています。他、家畜として豚、鶏を育てています。土壌の様子は、ほぼドウビャクドーサと変わらず、粘土質が強い褐色の土壌であまり肥沃とは言えません。土壌を覆う植物はなく、むき出しの状態で直射日光を受けています。酸性の土壌であると考えます。

 

2.活動報告

 カヤ州到着後、現地コーディネーターのリーミャーさん、ティロさんの2人と打ち合わせを行い、3地域の状況をヒアリングしました。その後、シャン州ペコンを訪問し、到着早々、あらかじめ準備してもらっていた資材でコーヒーの発芽ベッドを建設し、種を蒔きました。その後、来年に向けてコーヒーを植える場所を決め、0.5haの土地に、今年は、シェードツリーを植えることとしました。 

 カヤ州の両地域は、外国人訪問禁止区域ということで許可証が必要で、ビジネスビザでないと許可証がもらえません。今回は、カヤ州政府内の農業畜産省を訪問し、農業大臣と面談し、同地域への訪問の許可を願い出ました。幸運なことに、大臣がとても協力的で、許可をいただきました。大臣訪問後、移民局、産業開発センター、中央政府管轄の農業省を訪問し、プロジェクトの説明を行い、協力を求めました。また、同センターにおいて、800本コーヒーの苗木(品種はS795)をカヤ州プロジェクト地域用に購入しました。また、同地域でコーヒー栽培のための農具等を購入し、ヤイブラ村がある地域一帯を担当しているバプティストグループの長に面談し、プロジェクト内容と協力を願い出ました。 

●ヤイブラ村●

 6月24日にヤイブラ村へ行きました。舗装されていない道路のため、泥で滑りやすく、危険な道です。雨が降ると、行くことも帰ることも難しいと思われます。到着後、すぐに農家の方々と面会し、自己紹介を兼ねてミーティングを開きました。フェアトレードを今後行うため、皆で協力し合いながら事業を行っていくこと、コーヒーの苗をしっかりと植えて、ちゃんと育てることをお伝えし、農家の皆さんの合意を得ました。

 ミーティングの後、農園を訪問しました。自然林が多いため肥沃です。事前に配っていたコーヒーの苗木をすでに植えている人もいて、活発に作業をしていることがうかがえました。幾つかのコーヒーの苗木を持って行き、実際にどのように移植するか、方法を伝えました。土に30cm四方の穴を掘り、穴の中に腐葉土をいれ、表面10−20cm程度、土を入れ、腐葉土と一緒に混ぜ込みます。その後、苗木の下を部分を鉈で切り落とし、根の側枝が伸びるように刺激を与え、植えていきます。しっかりと土を入れ、エロージョン(摩擦による腐食)が起こらないように土を軽く踏み、固めます。

 自然林
のため、コーヒーの木に影をつくるシェードの管理というものが存在していません。そのため、苗木の状態では問題ありませんが、収穫期を迎えたコーヒーの木においては、かなり強いシェードとなってしまいます。数年後には、ある程度、シェードツリーの選定が必要となると思われます。また、この地では牛を放牧しているため、農園内を自由に行き来できてしまいます。そのため、コーヒー園に生垣を作る必要がありますが、農家の中には十分な資材を揃えることができない人もいて、有刺鉄線を購入してくれないかという依頼もありました。ですが、今後の継続的な支援のことを考えると、有刺鉄線は費用がかさみすぎてしまいます。とりあえず、他の受益者の支援を得て、生垣を作ることをすすめました。購入した農具を支給し、再度、「皆で協力しながら行っていくこと」を確認し、ヤイブラ村を後にしました。

 農家と別れた後、コーディネーターのティロさんが管理する土地を訪問しました。建設中の苗場をみるためです。ヤイブラ村から少し距離がありましたが、ティロさんが管理する土地で苗場を作りことになっているため、農家がこの土地まで赴いて、苗木の管理をしなくてはなりません。農家の皆さんには、ここまで来て、苗木管理を行うように伝え、合意を得ています。苗場には牛を防ぐためのフェンスがしっかりと巡らしてあり、問題なく苗木が育成できる土地になっています。後は、シェードネットを設置すれば、苗場が完成するところまでできています。発芽ベットはまだできていませんが、7月中に完成する予定です。

●ドウビャクドーサ村●

 25日には、ドウビャクドーサ村を訪問しました。ロイコーからは比較的に近く、アクセスも問題ありません。道路には一部舗装されていない部分があるため、少し注意が必要です。村に到着すると、農家のみなさんがすでに待機していて、挨拶も早々に、発芽ベッドの建設に取り掛かりました。雨期でありますが、干ばつがひどく、主に植えられているメイズは枯れてしまっているものも多くありました。ティロさんが同行してくれたため、彼に指導をお願いして、ペコンで作った発芽ベットと同じものを作りました。まだ時間があると思い、苗場の建設にも着手するため、農家が保有する竹林で幾つかの竹を伐採し、苗場建設地域へ運びました。しかし、途中雨が降り始めてしまい、建設資材の収集で建設は取りやめになりました。苗場の広さは10m×20mのもので、今回用意した種2000本は、余裕を持って収めることができます。昼食後、建設した発芽ベッドに種を蒔き、全ての工程を終わらせました。苗場は、7月中に建設するよう伝えました。

 その後、農家の皆さんとミーティングを開きました。それぞれの土地の広さなどを伺い、ヤイブラと比べると比較的狭い土地を所有していることがわかりました。標高が低いこと、干ばつであることもあり、高温な土地です。コーヒーの木は育ちますが、シェードツリーが必ず必要となる地域です。ミーティングの中で、上がった問題点としては、苗場に必要な水の確保です。貯水池を保有しているため、そこから水を引っ張ってくる必要があります。また、ヤイブラ村と比べると、比較的痩せている土地であるため、堆肥を作る必要があります。この村はもともとコーヒーが育っている地域でもあるため、映像を使って精選工程を説明し、理解を促しました。今年取れるコーヒーの品質を向上させるためには、コーヒーの果肉除去機を購入する必要があります。

 ここでは、当初聞いていた人数よりも2人増え、合計8名の参加メンバーが集まりました。皆明るく、活発で、ミーティングもスムーズに進みました。フェアトレードの認証のために必要となる「団結して活動を行うこと」と、今回配給した苗木(各75本)は「責任を持ってしっかりと育てること」を合意しました。

 ミーティング後それぞれの農園を訪問しました。肥沃とは言えない土壌ですが、健康的なコーヒーの木が育っていました。病虫害の被害は見受けられませんでした。品種はハイブリットのもので、品質が低くなる可能性があります。すべての土地が、混植栽培を行っており、メイズを中心に農耕しています。シェード(影)の下にあるコーヒーは問題ないですが、シェードがない場所に植えられたコーヒーは、干ばつによってしおれてしまって、栄養バランスが不安定な症状を見せていました。ヤイブラ村と同じく、適切な移植の仕方を皆に見せ、十分な理解を図りました。最後に、購入した農具を渡し、苗場建設と、発芽した後のポットの用意を促し、帰路につきました。

ドウビャクドーサ村のコーヒー種まき

 その後、再びシャン州ペコンに戻り、シェードツリーの苗を購入し、農具を運搬しました。苗場建設のための設計計画を説明し、コーディネーターと協議しました。7月中には完成すると思われます。また、発芽後にポットへ移し替えるため、必要となる土(砂:土:堆肥1:1:1の割合)を準備するように伝えました。購入したシェードツリーの植え方を説明し実際にやってもらいました。最後に、干ばつを防ぐために、必要となる貯水タンクの設置場所を決定しました。

 

3.今後の活動

 次回、訪問予定の8月には、苗場の建設と発芽ベッドの建設は終了している予定のため、種の発芽後に移植するためのポットと土を準備し、移植を行っていきます。ヤイブラ村では、牛の侵入を防ぐための生垣の設置と、苗場・発芽ベッドを協力して作ること、苗場の管理をしっかりと行っていくことが必要です。ドウビャクドーサ村では、堆肥作りを定期的に行い、シェードツリーを植えること、灌漑用の水の確保が必要で、果肉除去機も用意できると良いです。また、苗場のペコンでは、灌漑施設の設置を雨期中に済ませる必要があります。これらの点を現地コーディネーターと協力して行っていくとともに、農家の皆さんには、継続的に、団結と協力体制を十分に作っていくことを促していきます。

 

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