5冊の難民に関係する条約・法律を集めた法令集を作り、5つのキャンプの各図書館に(近い将来できあがるはずの4つも含む)寄付をした。
きっかけ
仲良くなった難民の青年が、UNHCR職員に難民条約が欲しいと訴えたら、そんなものはおまえ達には必要ないと断わられたと言う。
何のための難民条約やら・・・。難民のための難民条約なのではないの?
UNHCRがやらないんなら私がなんとかしよう・・・
どうせ条約を集めるんならセカンダリースクールでの授業ででも使いたいしいろいろ集めて本にしちゃおう。
TCRSがいまだ図書館のない4つのキャンプにも新しく図書館を作るということだし全ての図書館で難民が手に取れるようにしよう・・・。
と、5冊の法令集を作り出した。
法律的観点からみたキャンプ内の人権状況
難民は自分にタンザニアの法律が適用されているにもかかわらずその内容を知らない。
例えば、タンザニア難民法は
* 5人以上の難民を集めたら5年以下の懲役または(加えて)3万円以下の罰金。
*タンザニア国内外の家族と再会した場合に当局の許可なく、ともに生活を始めたら6ヶ月以下の懲役または(加えて)1000円以下の罰金。
とかいったことを規定しているにもかかわらず、難民自身はそれを知らない。
実際、5人以上の難民は市場で集まり、食糧配給所で集まりしているのだが、いざとなったらタンザニア政府はそんなことを理由にしてでも彼らを逮捕できるということである。
そして、タンザニア憲法(もちろん国際人権条約でも)では集会の自由は大々的に保障されている。つまり、その難民法は明らかに国際人権条約やタンザニア憲法に反しているのである。憲法訴訟が起きれば確実にその条文はなくなる。キボンドのマジストレイト(地裁にあたる)裁判官も、難民が誰かこれに関して憲法訴訟をしたら勝訴の判決を書いてやれるのに難民は誰も訴えない・・・・と悔やんでいた。
難民の権利は法律だけではなく、慣習でも制限されている。政治的表現の自由は法律ではなく慣例で制限されているという。慣例って何だ?誰が決めたんだ?でも、難民がキャンプ内で集まって政治談議をしたら逮捕できるということである。
これは、ブルンジ難民がキャンプ内でブルンジの政治について話し合い、政党でも作ったとしたらブルンジ政府がタンザニア政府に対し攻撃を仕掛けてくるかもしれないという懸念の下の慣習とのこと。その懸念もわからなくもないが何の根拠もなく好き放題逮捕されてしまいかねない難民の人権状況の悲惨さといったら、目を覆いたくなるような状況である。
しかし、このような人権状況に対しても難民は声をあげられない。あまり目立った行動をすることで、UNHCRの目にとまり食糧の配給を減らされたりすることを懸念するからである。実際そのような不公平な取り扱いがなされているかどうかは不明だが、難民達は「UNHCRは今となってはわれわれの国であり、父であり、母である。彼らに従う以外生きていく道はない。」との発言をするくらい今の状況に甘んじるしかないと考えている。
難民個人では法律的知識がないから法律的行動には出られないし、UNHCRに一人だけ雇われている難民担当のタンザニア人弁護士はキャンプ内の殺人やレイプ等のケースの刑事手続の処理に終われている。何とか、人権状況の改善を図ることだけを仕事とするスタッフがUNHCR内におかれるべきだと痛感する。キボンドオフィスでなくとも、国際社会の動きとして難民の権利をもっと向上するような働きかけをもっと活発にしなくてはと感じる。
過程
日本なら、法令集なんて本屋に注文すれば、100冊でも1000冊でもすぐに手に入る。が、そこはタンザニアの辺境地、キボンド。マジストレイト・コートの裁判官に頼んでタンザニア憲法(難民キャンプとはいえタンザニア国内なので難民にはタンザニア憲法が適用される)を入手したはいいがオフィスでもコピーは日に10枚とかそんなレベルしか許されない。
インターネットもないから世界人権宣言一つも入手できない。やっと手に入れたタンザニア難民法はコピーが不鮮明で自分でもう一度タイプしなくてはならない始末。
8月末にタンザニアを訪れた知人に原本をコピーして持ってきてもらいそれを、あちこち駆けずり回り、挙句の果てには首都のダルエスサラームに行った折りに全てのコピーを完成。
法令集ができたときには、うれしくって思わずセルフタイマーで記念撮影してしまった(写真参照)。
目次及び前書きを資料として添付した。基本的にフランス語で法令は集めた。法令集には以下のものを掲載した。
* 世界人権宣言
* 経済的社会的及び文化的権利に関する国際条約
* 市民的政治的権利に関する国際条約
* 難民の地位に関する条約
* アフリカ難民条約
* タンザニア難民法
結果
先に記載した人権の授業で、この法令集は大活躍した(写真参照)。
加えて、図書館の設置により勉強の継続のみならず、フランス語を読める全ての難民に自分達が法律的にどのような状況におかれているか、どのような援助を受ける権利があるのか等々を知らしめる良いツールとなっていることと思う。難民でも元政治家や、大学教授、弁護士等の人もいる。それらの方の目にも触れればと強く願う。