サッカーは世界で最も人気なスポーツの一つですが、世界で使われているサッカーボールの70%以上が、パキスタンのシアルコット地区で手縫いで作られ、世界のスポーツマンの需要に応えています。シアルコットでは4万人もの人々がスポーツボール産業に従事していますが、製造現場では、安い賃金や劣悪な労働環境、児童労働などの問題を抱えています。パキスタンでは依然として人口の30%が貧困線以下の暮らしを余儀なくされています。
こうした労働環境を改善し、児童労働をなくすための働きかけの1つとして、フェアトレードボールの仕組みができました。フェアトレードボールには、通常の商品代金の支払いとは別にフェアトレードの奨励金(プレミアム)が支払われ、パキスタンの子供の教育や労働者の福祉など、地域の発展に貢献しています。
わかちあいプロジェクトの提案から国際基準になったフェアトレードボール
パキスタンでのスポーツ用品の生産は、19世紀に始まりました。一人のイギリス人が、テニスラケットを壊してしまい、シアルコットの職人に修理を依頼したところ、彼は素晴らしい技術で完璧に直してみせました。その技術に気づいた欧米諸国は、シアルコットをスポーツ用品の生産地とし、以来、木製や革製の様々なスポーツ用品がシアルコットで作られるようになり、スポーツ産業が発展していきました。しかし、スポーツ用品の製造は、大変な作業を必要とするにもかかわらず、得られる収入はわずかでした。子どもたちは不法に安い賃金で働かされ、パキスタンのスポーツ産業は、児童労働の温床となっていきました。1996年には、約7千人の子どもが児童労働に従事していることが明らかになっています。
sialkot_map1993年、わかちあいプロジェクトの代表の松木は、ケニアのカクマ難民キャンプを支援する中で、子供たちが布を丸めてボールを作り、蹴って遊んでいる様子を目にしました。1995年、ボールのない難民の子どもたちのために、サッカーボール300個を購入するため、パキスタンのシアルコットの会社を訪問した際、ボール製造現場を目にして、フェアトレードのボールを作るアイデアを思いつきました。フェアトレードの国際認証マークを付けることができれば、多くの労働者の収入が向上し、生活を改善することができます。そうして、FLOの前身であったトランスフェアインターナショナルの事務局長に、フェアトレード・サッカーボールの基準を作ることを提案しました。
>> フェアトレード・サッカーボールが生まれた由来
一方欧米諸国では、1990年代になって消費者がパキスタンの労働問題に気づき始め、多くの人々が改善を求めて声を上げるようになりました。1997年には、スポーツボールの製造現場で児童労働をストップさせるための「アタランタ協定(The Atlanta Agreement)」がILO、UNICEFとシアルコット商工会議所の間で結ばれました。
この流れがわかちあいプロジェクトの呼びかけを後押しし、2002年、国際フェアトレードラベル機構(FLO)で、スポーツボールの製造と貿易にフェアトレードの基準が作られることで合意され、2002年3月にシアルコットで4つのボール製造会社がフェアトレード認証を取得しました。日本では、2004年に初めてフェアトレードボールがASPIROというブランド名で、わかちあいプロジェクトより発売されました。今では、パキスタンで6社がフェアトレード認証会社として登録され、フェアトレードボールは、イタリア、イギリス、オーストリア、スウェーデン、ドイツなど世界で販売されています。
わかちあいプロジェクトでは、「ASPIRO」というオリジナルブランドで2004年からフェアトレードボールを販売しています。ASPIROとは、ラテン語で、『何かを得ようとして努力する、希望する』という意味です。世界で恵まれなく、困難な環境のなかでも懸命に努力している若者たちの支えになることを願ってこの名前をつけました。
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ボールを製造しているのは、パキスタン・シアルコットのビジョン社( Vision Technologies Corporation (Pvt) Ltd.)。2002年に世界で初めてフェアトレード認証を受けた会社の一つで、スポーツ産業のリーディングカンパニーとしてパキスタンの発展を支えてきました。長年にわたり、先進国など世界中のスポーツ用品の需要を受け、さまざまな技術を開発しながら、現地の数多くの労働者とその家族の生活を支えています。
パキスタン、シアルコットのVISION社の工場
フェアトレードによって生産者へ還元されるフェアトレード・プレミアムは、地域の人々自身が必要と考えるプロジェクトに使われています。ビジョン社では、これまでに健康や医療、教育、労働環境の改善などに取り組んできました。今後は、それらの活動を継続していくほか、マイクロクレジットや、子ども向けのIT教育を実施していく計画をしています。
●安全な水の供給工場に浄水場を設置し、安全な飲み水が手に入るようにしました。労働者は水容器に水を入れて自宅へ持ち帰り、家族も安全な水を飲むことができるようになりました。これにより、衛生環境が向上し、病気の予防が進んでいます。また、福祉学校の男子校、女子校のそれぞれに浄水冷水機を設置しました。
●健康と医療プログラム ボールの縫製に携わっている労働者のための無料の眼科検診を 2006年から定期的に実施しています。問題が見つかった人には、 眼鏡や薬などの支給、手術などの対応を実施しました。 2011年からは糖尿病の検診も実施し、必要な人へ薬を支給 しました。また、近年では、健康と病気の予防のため、 糖尿病や喫煙に関する研修会を実施し、献血への理解を深める ためのキャンペーンも実施しました。
●労働者への無料送迎の実施 工場で働く人の中には、1、2時間かけて通勤する人が多く います。労働者が安全に通勤し、仕事に集中して取り組むことができるよう、 工場で働く労働者への無料の送迎を提供しています。 遠方から通う労働者が交通費と通勤時間を削減できるようになりました。 約90人の労働者が利用しています。
●フェア・プライス・ショップの開設 工場で働く人々とその家族が、定価格で品質の良い日用品等を 購入できるよう、非営利のお店を開設しました。平均して 一人当たり月400パキスタンルピー(約450円)節約できるように なりました。この事業は、地域の自立支援事業のモデルケース として、長期的な視野で実施されています。 また、ラマダンの時期には、食料品のディスカウントを実施しています。
●教育支援 労働者の子どもが学校に入学する時、無料の学校キットを提供 しました。キットの中には、スクールかばん1個、ノート8冊、 えんぴつ12本、鉛筆削り1個、消しゴム1個が含まれています。 2010年から2014年までに約2千7百人の子どもに提供しました。
●環境理解 地域に住む人々を集めて、節電と環境に関するセミナーを 開催しました。労働者に省エネ電球を支給し、家庭で節電により 電気料金の節約ができるよう支援しています。
わかちあいプロジェクトでは、このフェアトレードボールを世界中の子どもたちに届けるため、JICA「世界の笑顔のためにプログラム」を通して多くの国々へ寄付しています。これまでにガーナやケニア、タンザニア、ベネズエラ、カメルーン、スリランカ、キルギス、モンゴル、ペルー、エクアドル、ベナン、ヨルダンなど、世界各地の学校へボールを送り、子どもたちに使ってもらっています。それまで布や袋などを丸めて蹴っていた子どもたちも、本当のボールを手にして、喜びのメッセージや笑顔の写真が届いています。
また、日本国内では2004年の発売より、学校や企業など多くの団体が、スポーツを通してパキスタンの人々を支えるため、フェアトレードボールを取り入れています。
フェアトレードフットサル大会近年では、フェアトレードボールを使ってサッカーやフットサルの大会を開催し、多くの人にフェアトレードを知ってもらおうという取り組みも実施されています。2014年には、大日本印刷株式会社の恒例行事「DNPグループ総合体育祭」にて、2015年には兼松株式会社が主催する少年サッカー大会にて、フェアトレードのサッカーボールが使われ、多くの参加者がスポーツを通してフェアトレードに親しんでいます。同志社大学フェアトレード推進サークルTicaretteでは、毎年フェアトレードボールを使ったフットサル大会を開催しています。
また、児童労働をなくす方法として、雑誌や学校用教材でも、体育、英語、国語、道徳、国際理解教育などの分野で幅広く多く取り上げられています。スポーツボールがどのようにして作られているのか、世界の人々の暮らしや貿易、貧困問題への取り組み例、わたしたちにできることは何か、といった問題で注目されています。
わかちあいプロジェクトでは、ご依頼に応じて、会社や団体のロゴやデザインでフェアトレードボールを作るOEM・PB製造を承っています。これまでにサッカークラブや援助団体、WWFジャパンなどのボールを製造してきました。ご関心のある方はお問い合わせください。
●最少ロット:100個~
●フェアトレードラベルの使用条件
問い合わせ先
TEL: 03-3634-7809 (平日9:30~17:00/ 祝日を除く)
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